IoT・ICT導入による業務改善コンサルティング
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労働力不足が深刻化する中、介護業界においては今後、テクノロジーを活用した業務効率化が一層強く求められます。6月25日の第9回全世代型社会保障検討会議では、IoTを駆使した先進事例の全国展開を進めることが方針として確認されましたが、実際のところ、どのようにしてIoTを介護現場に導入すべきかは、未だ十分に知られていないのが実態です。
今回は、介護現場の生産性向上をテーマとした「IoTによる介護施設の高収益化セミナー」の第1講座より、介護事業者が今、実践すべき業務改善についてお伝えします。
業務改善の目的
業務改善にはいくつかの目的があります。業務改善を進めることによる利益の最大化もそうですし、職員の労働環境整備も目的の一つです。
また、今はコロナ禍ですが、より少ない人員での運営が可能であれば、当然、感染リスクを低下させることにも繋がります。新型コロナウイルス感染症だけではなく、インフルエンザ対策においても、少数人員での運営は効果があるものと考えられます(毎年、冬にインフルエンザが流行りますが、入所者がインフルエンザにかかるのは、ほとんどの場合において職員からの感染です)。
業務改善は、利益の最大化や労働環境の改善において欠かすことはできませんが、併せて、感染症のリスクを軽減する、あるいはパンデミック時の備えにも繋がるという視点も重要だと考えています。
今、業務改善に取り組むべき理由
多くの介護事業者は、早急に業務改善に取り組むべき状況を抱えています。
貴社では今、慢性的な残業や休日出勤が発生していないでしょうか。休みが取れなければ職員の負担が増大しますし、有給が5日取得できなければ法人に罰金が課せられることになります。ただ労働環境が悪いというだけでなく、残業代や罰金といったコストの支払いにも繋がるため、業務改善着手の必要性は非常に高いと言えます。
また、休憩時間の部分的・全体的未取得が発生していないでしょうか。様々な法人様や施設様に訪問させて頂いていますが、休憩がなかなか取れないというお話をよく伺います。ご入所者やご利用者が昼寝をしている間に休憩をとるという施設もありますが、その他の時間帯で休憩時間を設定している場合には、なかなか休憩がとれないのが実態かと思います。休憩時間をきちんと確保できなければ、当然ながら肉体的にも精神的にも負担が大きくなり、離職に繋がりかねません。休憩時間を確保できていない場合も、早急に業務改善に取り組む必要があります。
業務改善への取り組みは、職員の処遇改善にも繋がります。職員数が少数になれば、当然、1人あたりの生産性が上がり、給与を引き上げることが可能となります。介護業界は他の業種と比べて年収が低いとよく指摘されますが、背景に1人あたりの生産性の低さがあります。年収が上がっていけば、採用力も高まります。新卒・中途問わず、同じ仕事をするのであれば、より高い給与を望みますし、より働きやすい環境で働きたいと考えるものです。経営者には、生産性向上に加え、1人あたりの給与をどのように上げていくかという視点も、併せてお持ち頂きたいと思っています。
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業務改善による長期的生存戦略
採用マーケットは、新型コロナウイルスの影響で大きく変化しました。端的に言うと、不景気になったことで人材を採用しやすくなりました。リーマンショックの後もそうでしたが、他業界の仕事が減ると、介護業界に人材が流れて来ます。コロナ禍の前までは比較的好景気だったため、給与水準が低い介護業界に人材がなかなかまわってこない状況でしたが、コロナ禍の今は事情が異なります。
しかし中長期的にみると、労働力人口はどんどん減っていき、介護に関わる人材が大きく不足することは確実です。そこで外国人を雇用する施設も出てくるわけです。今は採用がしやすくなってきているため、中には業務改善をしなくてもいいと考える法人もあるかもしれませんが、景気が回復すれば、また採用が難しくなります。将来的にますます人材不足が深刻化する事態は避けられず、問題の根本的な解決は困難です。
われわれがIoTやICTの活用を推奨している理由の一つがそこにあります。短期的な視点ではなく、中長期的な視点に立つなら、存続可能な施設を目指すための体制を今の間に整える必要があります。短期的には前述の通り、不景気のため高い確率で介護業界に人材が流れて来ます。それであっても、既に応募があった法人では、未経験の人材が少なくなかったのではないでしょうか。退職して職を探している方の応募があったとしても、即戦力としてはなかなか考えられません。より重要なのは、中長期的な視点に立ち、経験者や有資格者をどのように採用し、どのようにしてより少ない人材で適切なケアができるのかを考えることです。
業務改善にあたってまず行うべきこと
下の図はコンサルティング現場でもよく見かける一般的なシフトを、1日あたりの時間数(縦軸)と1ヵ月の推移(横軸)で表したグラフです。
一見すると通常のシフトのようでも、実は大きな問題を抱えています。問題は、現場の人員数が毎日のように大きく変動している点です。施設の1日の業務量は、日によって入浴サービスを提供しなかったり、施設行事のためサービス内容を変更する場合もありますが、基本的には一定のはずです。日々の業務量が違うのであれば、シフトの人数や労働時間が異なっていても問題ありませんが、業務量が同じ場合は、同じ人数で運営ができていなければ効率的とは言えません。
多くの経営者は、細かくシフトを確認することはしないと思いますが、毎日のシフトの数×365日が年間の人件費です。ということは、1日当たり何人の職員がシフトに入る必要があるかを把握し、それに合わせて適正な配置をしなければ人件費が膨らむことになります。
目標労働時間の算出
シフトのばらつきが発生する原因には、業務量に合わせた人員配置や、業務の『平準化』ができていないことが考えられます。そこでまず行うべきは、1日何時間の労働時間が必要なのかを具体的に設定することです。そうしなければ、例えIoTやICTを導入したとしても効果をなかなか実感することができません。
IoTやICTを入れるには投資が必要です。当然、投資をすると投資回収が必要です。投資回収のためには、目標設定が必要になってきます。船井総合研究所が推奨する人員の目標数値は『2.75:1』です。セミナーで講演頂いた社会福祉法人 善光会様は、更に高い数値(つまり少数人員)で運営されているため、2.8:1や、それ以上の数値を目指すことも可能ですが、まずは2.75:1を目指して頂くのが現実的だと考えています。
人員配置を2.75:1とした場合、定員70人の従来型特別養護老人ホームであれば、毎日の介護職や看護師の総労働時間は140時間となります(常勤職員の所定労働時間は168時間とします)。まずは、このように必要な総労働時間を算出頂き、毎日のシフトがその時間内で収まるように業務設計をして頂くことが重要になります。
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目標値と業界平均値の比較
対象 | 定員 | 人員配置 | 常勤換算数 | 目標常勤換算数 | 目標との差 |
ユニット型特養 | 70.2 | 1.70 | 41.2 | 25.5 | 15.7 |
従来型特養 | 68.0 | 2.15 | 31.7 | 24.7 | 7.0 |
特定施設 | 57.7 | 2.60 | 22.2 | 21.0 | 1.2 |
上の図は、業務改善の目標数値と業界の平均数値の比較表です。ユニット型は平均70床ですが、その場合の常勤換算数の平均は41.2人です。2.75:1で運営すると人員配置は25.5人となるため、16人弱、人員が多いことになります。従来型の場合は、平均が68床で、常勤換算数は31.7人です。目標数値との差は7人です。
厚生労働省が基準とする人員配置は3.00:1ですが、実際にこの人員配置で運営するのは極めて困難です。どの施設も3.00:1では運営できず、平均の人員配置はユニット型で1.70:1、従来型で2.15:1と、3.00:1にはほど遠い数値となっています。3.00:1という数字を机上の空論だと考える方もおられるかもしれません。しかし、セミナーで講演いただく社会福祉法人 善光会様は、ユニット型の特別養護老人ホームを2.80:1の人員配置で運営されています。実際に3.00:1に近い数値で運営されている法人の例を見ると、やり方次第で達成可能な数字であることが分かります。
ほとんどの施設がこの人員配置を達成できていない背景には、「良いサービスを提供するため」と諦めてしまっている部分が少なくないと感じています。現場で人手不足の声が上がり、適切なサービスを提供できていない実感があると、業務改善ではなく、人を補充することに意識が傾くのではないでしょうか。善光会様は2.80:1の人員配置で運営されてますが、施設の様子を拝見すると、大変素晴らしいサービスを提供されています。問題は人員数ではなく、やり方にあるという認識が必要です。
補足として特定施設についてお伝えします。特定施設の平均的な人員配置は2.60:1、常勤換算数で22.2人です。目標常勤換算数は21人ですので、その差は1.2人となります。特別養護老人ホームと比べると、そもそも目標値との大きな差はありませんが、特別養護老人ホームと違い入居費用を高く設定する施設も多いため、必ずしも人員が少ない方がいいわけではありません。高い費用を請求できるのであれば、極論、1.00:1の配置で手厚いサービスを提供してもかまわないと思います。
施設によって状況が異なりますが、特別養護老人ホームの場合は、ユニット型なら16人弱、従来型なら7人弱の「省人」を目指していただきたいと思います。
介護施設の業務改善の3ステップ
実際に業務改善を進め、人員配置2.75:1を実現するには、①日中の業務改善、②夜勤のシフト改善、③日中のシフト改善の3つのステップがあります。
様々な施設で業務改善のお手伝いをさせていただいていますが、やり方を間違えると効果がありません。間違えやすいのが業務改善の優先度です。実際に「事務職の業務改善をしたい」というご相談を頂くことがありますが、全体の職員数で見ると少数でしかない事務職の業務を改善したとしても、施設全体に与えるインパクトは限定的です。もちろん事務職の業務改善も重要ですが、施設全体の業務改善を行う際は、全体に与えるインパクトが大きいものから実施する必要があります。
もう一点気を付けなくてはならないのは、直接介護の時間を業務改善で減らしていくわけではないということです。まずは、間接業務から手を付けていくことが重要です。ステップ1からステップ3まで、直接介護の見直しも行いますが、基本的には直接携わっていない時間をどのように改善していくかということになります。
ステップ1からステップ3の具体的な取り組みについては、「IoTによる介護施設の高収益セミナー」の第3講座にてお話しをさせていただきます。どのようなIoT、ICTを導入し、まず初めに何を実施しなければならないのかは、ステップ別に詳細をお伝えします。
業務改善の収支決算への影響
IoT・ICTを導入するにあたり、かかる費用と利益の改善率をまとめたのが上の図です(70床で計算)。多床室の場合、セミナーでお伝えさせて頂く全ての機器を補助金を使わずに導入すると6,400万円かかります。個室の場合、7,100万円かかります。計算上は、それぞれ約2年で回収が可能です。施設によって導入する機械の台数や影響が異なるため、上の図はあくまで参考のシミュレーションになりますが、実際に試算を行い、短期間での投資回収が可能と見込めるのであれば、積極的に実施を考えるべきです。
導入すべき機器の選定については、月次支援等のお打ち合わせの際にお伝えさせていただいております。ご関心のある方は個別の経営相談にてご相談ください。
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本記事は介護現場の生産性向上をテーマとした「IoTによる介護施設の高収益化セミナー」より、内容を抜粋して構成しています。同テーマのセミナーは定期開催していますので、詳細についてご関心のある方はぜひセミナー情報をご覧ください。 |
この記事を書いたコンサルタント
沓澤 翔太
デイサービス、特別養護老人ホーム、有料老人ホームなどの新規開設、収支改善、異業種からの介護事業への新規参入支援などを手がける。現在は、主としてデイサービスや有料老人ホームの利用者獲得や新規開設を中心にコンサルティングを行っている。 介護事業のコンサルティングの他、療養病床の転換や訪問診療など、医療業界のコンサルティングや、医療器具の販売促進についても実績を持つ。