日々、在宅医療の最前線で利用者様を支える訪問看護の現場は、常に多忙を極めていることと思います。
しかし、事業を拡大し、より多くのニーズに応えようとすればするほど新たな課題に直面することも少なくありません。
例えば、
・事業所数が増えていく中でサービス品質にばらつきが生じてしまう
・急な欠勤やトラブル対応で、普段とは違うスタッフが訪問することで「いつもと違う」「情報共有ができていない」といったクレームに繋がってしまった
・事業が成長するにつれて経営陣と現場スタッフの間に対話が減り、認識のずれが生じてしまう
などよく聞く話です。
そして、多くのステーションで最も共通する悩みが、管理職の育成ではないでしょうか?
事業所数が増えるほど、それぞれの拠点を任せられる管理者や所長が必要です。
しかし、優れた看護師が必ずしも優れた管理者であるとは限りません。
戦略的な視点を持つ人材をどう育て、配置していくかは事業成長の鍵となります。
また、看護師が本業ではないレセプト業務や電話対応、物品購入といった事務作業に追われ、本来のケアに集中できないという現状も、多くのステーションが抱える「あるある」ではないでしょうか。
成長しているステーションの組織構造
多くの訪問看護ステーションが、事業拡大の過程で同じ壁にぶつかっています。
看護師としての専門性を追求しつつ、いかに組織として持続的に成長し、質の高いサービスを提供し続けるか。
この答えは、現場の努力だけに委ねるのではなく、組織全体の構造や機能を見直すことにあります。
ある企業では、課題を乗り越え創業からわずか4年で目覚ましい成長を遂げてています。
経営上手な組織を構築し、現在では8拠点、職員65名、月間売上5,000万円と成長中です。
この企業は創業当初、経営者とスタッフの2階層というシンプルな組織でスタートしました。
しかし、2拠点目のオープンを機に「事業所長」を設け、3階層へ移行。
成長を続ける中で、組織階層を段階的に進化させています。
現在では、経営者、統括本部、エリアマネージャー、管理者、スタッフの階層が確立されていますが、特筆すべき点は管理者クラスが現場スタッフに対して1/4程度の訪問件数に留め管理業務に特化している点です。
2024年には、人事、総務、レセプトの専任者を配置した本部を設置し、役割と責任範囲を明確にしました。
なお、各事業所には事務員を1名配置し、電話対応、チャット対応、新規利用者の進捗確認、物品代理購入といった多岐にわたる業務を担い、現場スタッフの負担を軽減しています。
これにより、訪問スタッフの事務業務を最小限に抑え、訪問業務に集中できる環境をつくってきました。
結果として、多事業所展開の形が確立しています。
戦略的な人材採用と評価制度の強化
本企業は、創業期は20〜30代を中心に採用していましたが、現在は30〜40代まで採用枠を広げています。
現在は看護師とリハ職の比率を6:4にすることを目指していますが、応えられるニーズには対応したいという経営者の考えも反映されています。
そして、管理職に必要なスキルを体系的に教育し、適切な権限と責任を与えることで、自律的な組織運営を可能にします。
このように、適切な人材に権限を委譲し、経営者はより戦略的な仕事に集中できる環境をつくっているからこそスピード感のある事業展開ができているといえます。
事例から見えたことは「看護師が看護に専念できる環境をいかに作り出すか」、そして「組織として自律的に成長するための仕組みをいかに構築するか」という明確なビジョンと、それに基づいた具体的な行動です。
今後さらなる成長を目指すのであれば、以下の点について見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
・組織構造の再定義と役割の明確化
・バックオフィス機能への戦略的投資
・管理職の育成と権限移譲
・データに基づいた評価制度と人材戦略
・ ITツールの積極的活用
本コラムでご紹介した企業にご登壇いただくセミナーを企画しています。
より詳しい取り組み内容が聞きたい方はご活用ください。
訪問看護経営のロードマップを学ぶ

【開催日時】
2025年8月27日(水)
14:00-17:00(受付開始13:30~)
【開催場所】
船井総研グループ 東京本社
サステナグローススクエア TOKYO(八重洲)
【アクセス】
JR「東京」駅:地下直結(八重洲地下街経由)
東京都中央区八重洲二丁目 2 番 1 号
東京ミッドタウン八重洲
八重洲セントラルタワー 35 階
この記事を書いたコンサルタント

久積 史弥
医療・介護業界に精通したコンサルタント。理学療法士資格を保有し、病院勤務、在宅介護現場での経験に加え、管理職として組織マネジメントも経験。船井総研にて、新規事業の推進、事業の最短軌道化を専門とし、実績とデータに基づいたコンサルティングを提供。クライアントの状況を的確に把握し、目標達成に必要な要素をシンプルに整えることで成果を創出します。