IT業界から、訪問看護に参入した事例

株式会社日翔テクノ 代表取締役CEO 河原﨑 広宜様

本業は東京都内を拠点にIT事業を営む日翔テクノ様、代表の想いもあり栃木県にて 訪問看護ステーションの運営を始めました。本記事では、代表取締役CEOの河原﨑広宜様 に訪問看護立ち上げ当初から現在に至るまでのエピソードをお話いただきました。

異業種から始めた訪問看護ステーションがご利用者様200名の 人気ステーションになるまでの歴史

船井総研
IT業界からの参入ということで、かなり珍しい参入のケースかなと思いますけれども 訪問看護を始められたきっかけは何でしたか?

河原崎様
27年前、私が34歳の時に、実は1年間だけ訪問看護ステーションの立ち上げから運営までの経験がありました。 その当時はまだ介護保険というものがなかったので、 全て医療保険でやっていましたが、今のように法的な整備がきちんとされていなかったので、非常にアバウトな制度の中でやっていました。ある時に私が所属していた会社が、訪問看護が成長の見込みがないっていうことで、いきなりパタッとやめてしまったんですよ。 私は子供の時いわゆる障害児だったので、 医療・介護という分野に非常に興味がありましたから、やりかけの仕事を投げ出してしまったみたいな思いをずっと20数年間抱いてきました。 ですから私が会社を始めて、本業の方が軌道に乗ったら訪問看護ステーションをやりたいと常々思っておりました。 そして、訪問看護ステーション用のレセプトを中心としたソフトウェアを弊社自身で開発をして、それの実験場という意味も込めて、 訪問看護ステーションを7年前に開設しました。

船井総研
そのような背景があったのですね。その当時、代表がご勤務されていた会社は介護、医療系の会社だったのですか?

河原崎様
実は、全然違うんですよ。いわゆるit系でした。私も元々エンジニアなので。

船井総研
そうだったのですね。 7年前に訪問看護を立ち上げたということで既に介護保険制度も整備されている 中での立ち上げだったと思いますけれども、事業はすぐに軌道に乗ってきたのでしょうか。

河原崎様
単月黒字化するまで1年かかりましたので当初は苦労しました。 ある程度予測はしていました。実は私の姉も現役の訪問看護師なので看護師の人種っていうものは厄介だよっていうことは散々聞いていましたから。 具体的に言うと、 とにかく看護師が営業してくれないことで頭が痛かったです。訪問看護ステーションが クリニックや病院と大きく異なっているのは、汗流して稼ぐ営業をしないと売り上げが 上がらないということですけれども当然、看護師さんは営業経験のない人たちですからそういう意味で苦労はしましたね。なので、 営業の研修を散々やりました。

船井総研
営業研修は代表が直接されたのでしょうか

河原崎様
そうですね。私もエンジニアでありながら、IT業界の営業職もやっておりましたので、営業に対する不安はなかったですね。訪問看護を開設して約3年は週3、週4のペースで事業所のある栃木に行っておりました。

船井総研
代表が直接営業研修、それも現地にそれだけの頻度で行くというのもすごいですね。 看護師の方も営業のやり方がわからない中で代表が営業研修を実施したというお話でしたけれども、徐々に看護師さんも自信をつけて営業できるようになったのでしょうか

河原崎様
そうですね。私自身が型にはまった営業スタイルじゃなかったので1人1人の個性に合わせた自分流の営業スタイルを作っていきなさいという事を研修では伝えました。 例えば、井戸端会議営業って私は言っているのですが、お仕事くださいって一言も言わなくていいので、世間話で30分盛り上がったら、もうバッチリよっていう、そういうことをずっと教えてきました。

船井総研
井戸端会議営業というのはつまり、世間話をして盛り上がって、仲良くなってきなさいと いうことでしょうか 河原崎様
そういうことです。頻繁に顔を出していれば、新しい契約をあそこにくれてやれっていう人情みたいなものが湧いてきます。そしてケアマネジャーさんの中には、看護師とか医者に対し てコンプレックス持ってる方もいるので、最初はあまり人当たり良く接してくれないんですよ。 だからこそ仲良くなって仕事以外の話、例えば子供の話とか天気の話とか、そういうことで盛り上がって帰ってこいと、それを顔を忘れられないうちに何回でも行ってきなさいと、もうそれだけなんですよ、営業研修って言っても。だから実際、看護師さんたちの反応としては、「なんだこれで良かったんだ」っていう反応が多いですね。

船井総研
看護師さんの営業に対する意識が変わってきたということなのですね。
河原崎様 そうですね。 例えば、看護師は大病院で働いていたような人を除けばパソコンも苦手意識を持ってる人が多いんですよ。しかも、ほとんど触ったことがないのに苦手と思ってる人が多いんですよね。そのような、やってもいないのに最初から壁を作ってしまっている、営業に対してもそうだということは最初からわかっていたので、私が看護師を連れ回して、 ケアマネジャーの方々たちとワイワイ盛り上がっているのを横で見ていて これでいいんですか?っていう反応は多かったですね。とは言え、 さすがに3回目・4回目になってくると、話すきっかけのネタがなくなります。ですので、私が毎月作っているのですが、”はなまる通信”という、ニュースレター的なものを紙媒体で作って、これを持っていきなさいと看護師に伝えております。しかしそれでもネタ切れするので、ボールペンや、付箋作ったり等して営業に行くきっかけを作っています。

船井総研
看護師さんが自ら営業に行くことができる環境を作ったということなんですね。
冒頭、看護師の人種というお話がありましたけれども。そのようなマネジメント面で
例えば職員が一気に辞めてしまった等のエラーはありましたか?

河原崎様
一気に看護師がやめることはないですけれども、看護師はご存知の通り、今非常に売り手市場なので辞めては新たに入るっていう時期は結構ありましたね。

船井総研
看護師が売り手市場というのは、本当におっしゃる通りだなっていう我々も実感するところですが、御社の場合看護師がご退職されるケースだと、どういった理由が多いでしょうか

河原崎様
うちの訪問看護の管理者は骨のある女性でして、わがままを言う人に対しては結構厳しい姿勢で臨んでくれるんですね。そこに対して反発してしまう方は退職されているケースが多いですね。あるいは、看護師さんの働き方でいうと病棟だとやっぱり夜勤があるんですが、 訪問看護ステーションの場合、土日祝日休みの日中帯だけの勤務ですので、 楽だろうと思って入ってきたら、存外楽ではなかったということでやめてしまう事も多いですね。 結局、クリニックの外来が1番楽っていう人が多いかもしれません。

船井総研
船井総研も採用のご支援をさせていただいて、楽だからみたいな方は入職してもやっぱ落ち着かないところはありますね。

河原崎様
そうですね。 大所帯の訪問看護ステーションでしたら、色々分野分けできるのでしょうけど、我々のような、そこまで大きくない規模感の訪問看護ステーションは、1人1人が全包囲できる人じゃないとダメなんですよ。

船井総研
先程、事業を進めていく上で看護師さんの営業、人材に関係するお話もありましたが、 その他、訪問看護始められてから、今に至るまで苦労された点はありますでしょうか

河原崎様
人の面でいうと、優秀な看護師さんがなかなか採用しづらい事とそれから、採用にお金がかかるっていうことですね。

船井総研
看護師も数年前よりは職場として訪問看護を選ばれる方もだいぶ増えてきたという印象は ありますが栃木ではまだまだ難しいというところでしょうか

河原崎様
そうですね。弊社の場合は一般的な募集広告では集まらなかったので、どうしても紹介会社頼りになってしまうのですが紹介会社の営業さんの中には不勉強な方も相当数おられるので、どう考えてもこの人、うちでは無理だろうっていう人を沢山紹介してきます。ですので面接などの無駄な工数がかかってしまうことがありましたね。今は、弊社から要望事項を明確にメールで、ここの条件、この条件っていうの、全部で10個ぐらいの条件を出して、ここに当てはまってる人だけ紹介してくださいっていうお願いをしております。

船井総研
そうすると人材採用という意味では、地道に求人かけたりとか、 紹介会社さんにコンタクト取り続けることが重要ということでしょうか

河原崎様
そうですね。リファラル採用を中心にやろうと思った時もありましたが、紹介してくれるのが1人だったので、複数人を採用するのは難しかったですね。 ですので、とにかく数いっぱい当たってくしかもうないのかなと。例えば、ジョブメドレーを使って100件以上スカウトを送っております

船井総研
やはり、そのような地道な努力が重要ということですね。営業の方に話を戻してしまうのですが、今現在利用されているご利用者様は、ケアマネジャーさん経由でご紹介いただいたというケースがやっぱ多いのでしょうか

河原崎様
そうですね。約8割はケアマネジャーです。 あとはクリニック、病院、他社様のデイサービスからの紹介で利用に繋がったこともありますね。 あと、例としては少ないですが、 サービス付き高齢者向け住宅にも営業して3件ほど契約が取れてます。

船井総研
そうするとご利用者様の大半が高齢者なのでしょうか

河原崎様
今ご利用者様は合計で約200人ですが、介護保険を使っていない人が3割ぐらいいまして、高齢者以外の利用者も結構多い方なんですよ。その3割の方は精神疾患を抱えた方がメインになりますね。

船井総研
精神疾患の方もいるということで、ご勤務されている看護師さんも精神科訪問看護の経験が ある方なのでしょうか

河原崎様
ほとんど経験がありますね。実は、私は臨床心理士の資格を持っておりまして、看護師さんからいろんな相談を受けたりとか、私が直接利用者さんにカウンセリングしたり等、看護師さんたちの迷いみたいなところは、 及ばずながら多少は解決出来ているので、精神科の看護師さんの方がむしろ定着率が高いですね

船井総研
ちなみに、営業はオープニング当初何回ぐらい行かれておりましたか

河原崎様
最初はもう利用者0でしたから、月でもう本当200回~300回行っているかと思います、 利用者0だった時に最初にノルマを設けたのが 最低1人5件行きなさいと、看護師3人から始めましたから、3人で1日15件、20日間で300件ほどでしょうか。 ただ、実際は行ってなかったり、パンフレットを数秒で渡しただけでカウントされてましたので実質は300件どころか、本当に有効な営業なんてその10分の1でしょうね。

船井総研
そうなんですね。少し違った視点からの話になりますが、訪問看護ステーションの運営において、管理者の存在は非常に重要だと思いますが、管理者に適してる人材像のようなものがあればお伺いできたらと思います。

河原崎様
向いてるか向いてないかちょっと別にして、弊社の今の3代目の管理者は 弱いものの立場とか、看護師1人1人の辛さがよく理解できるんですね。というのも、実は採用当初は准看護師だったんですよ。 実は准看護師さんが1番現場の経験が長く、下っ端として散々こき使われてきてるので、そういう弱い立場・辛い立場の人の気持ちがよくわかってくれるんですよね。ただ、最初から管理者としてうまくはいかなかったです。優しすぎて、厳しい指導ができなかったんです。 しかし、結局あなたがスタッフに優しくしていると、職員が甘えてしまうので厳しくしないと運営がうまくいかないんだよっていうことをわかってもらってきて、今は曲がりなりにもうまくいってるというところでしょうかね。 最初は私なんか、どうせ准看護師だからと言って、意見を何も言わない人だったんですよ。ですから、 地位が人を作るというところだと思います。

船井総研
管理者に途中から抜擢したということですが、その准看護師としてそのような苦労した経験もあるというところも、抜擢した理由なのでしょうか

河原崎様
お恥ずかしながら最初はそのような背景も気づいていなくて、色々な具体的な手技とか看護サポートについて、実はその方の助言・アドバイスが1番的確だったというのが、だんだん周りも気づいてきました。

船井総研
ありがとうございます。最後に、訪問看護を運営するにあたって、採用・集客等いろんな面がありますが、代表が考える運営の肝は、どこになるのでしょうか

河原崎様
言い古された言葉になるかもしれませんが、やっぱり人を思う気持ち、人に対しての丁寧さだと思います。これがあるとケアマネジャーがリピーターになっていくんですよ。私も商人なので打算的な意味合いもあり、あえて申しますけれどもそのような真心がある丁寧な看護ができる人は必ずケアマネジャーさんから信頼されますので、新たな利用者が出た時はぜひ弊社にっていう風に言ってもらえるんですよね。ですので、地道にコツコツとやるべき事を継続するのが重要だと思います。

船井総研
本日は大変お忙しいところありがとうございました。

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