【独占取材】平均年収430万円!訪問介護「ゴールデンケア」金野代表が明かす、 業界の常識を覆す “3方良し”経営とAI戦略

訪問介護業界は今、深刻な人材不足とそれに伴う経営難という二重苦に直面しています。 全国の多くの事業所が人材確保に苦戦し、小規模事業所の倒産も増加傾向にある厳しい状況です。 そんな中、千葉市で異彩を放つのが、正社員比率70%、平均年収430万円という、業界の常識を打ち破る経営を実践している訪問介護事業所「ゴールデンケア」です。 株式会社ゴールデンフィールズが運営する同社は、2021年の創業からわずか4年で千葉市内に訪問介護事業所を5箇所、相談支援事業所を含めると6事業所まで拡大。特筆すべきは、スタッフ一人当たり月間売上70万円という驚異的な生産性を実現している点です。 今回、新時代の訪問介護経営モデルを築きつつある株式会社ゴールデンフィールズの金野代表にユニークなビジネスモデル、採用・定着戦略、そして見据える未来について詳しくお話を伺いました。
Q1. 独立開業にあたり、数ある介護サービスの中でなぜ「訪問介護」を選ばれたのでしょうか?
Q1. 独立開業にあたり、数ある介護サービスの中でなぜ「訪問介護」を選ばれたのでしょうか? 訪問介護業界が多くの課題を抱えていることは認識していました。 「介護保険だけで運営することの方が難しい」と感じています。報酬単価の問題や特に高齢者介護におけるサービス中断のリスクなど、事業運営の難しさは当初から理解していました。 しかしだからこそ経営戦略を工夫する余地が大きいと考えたのです。特にサービスの継続性という観点から「障害福祉サービス」の安定性に着目しました。例えば知的障害をお持ちの方への入浴介助などは、利用者の都合によって短期間で終了することはほとんどありません。これを介護保険サービスと組み合わせることで、収益基盤を安定させ、持続可能な事業モデルを構築できると考えました。 また私自身がもともと営業職だった経験も活かせると考えました。業界の慣習にとらわれることなく、事業としてしっかりと利益を生み出し、それをスタッフに還元することで質の高いサービスを持続的に提供できる組織を作りたい、その思いを実現するフィールドとして訪問介護を選びました。
Q2. 訪問介護事業の運営において、特に大切だと感じていらっしゃることは何でしょうか? (事業収支、人材の採用・定着の観点からお聞かせください)
【事業収支について:『企業→スタッフ→顧客』の優先順位】 まず事業収支に関して最も重要なのは「企業が適切な利益を上げること」です。 弊社には「企業よし、スタッフよし、顧客よし」を目指す「3方良し」という経営理念があります。 しかしその実現のためには優先順位が重要だと考えています。それは『企業→スタッフ→顧客』の順番です。「採用面接で『あなたは何を一番大事にしますか?』と質問するとほとんどの方が『利用者(顧客)』ですと答えます。『企業です』という人はまずいません」と金野代表は語ります。 もちろん利用者様への貢献は私たちの使命ですが、企業が健全な利益を上げられなければスタッフの雇用や待遇を守ることはできず、結果として利用者様に安定した質の高いサービスを提供し続けることもできなくなってしまいます。 「企業が適切な利益を上げられない限りは、結局周りに回って、顧客に対しては価値を提供できません」という考えが、私たちの高収益・高賃金モデルの根幹にある哲学です。 【事業収支について:収益安定化の鍵『障害福祉サービス』】 その上で収益を安定させる具体的な戦略が、「障害福祉サービスとの両立」です。 先ほども触れましたが、「介護保険だけで運営することの方が難しい」。その理由は明確で主に2つあります。介護保険の報酬単価は、処遇改善加算(介護職の賃金改善を目的とした制度)を含めても、障害福祉サービスより低い傾向にあること。高齢者の利用者様は健康状態が不安定な場合も多く、入院などによるサービス中断や、予期せぬ早期終了のリスクが高いこと。 これに対し障害福祉サービスは比較的安定しています。 弊社の利用者の約8割は精神障害をお持ちの方々で、「ほとんどはADL(日常生活動作)で自立している」方が多いのが特徴です。 支援方針も「ご自分1人でできるようになるために、まずここからやってみましょうか」という形で、自立に向けた支援を基本としています。結果として、ADLが自立している方が多い中でも「身体介護の割合が比較的必然的に増える」傾向にありこれが収益の安定に繋がっています。
【事業収支について:高生産性の源泉『一人月70万円』基準】
そして平均年収430万円という高水準を実現するための具体的なメカニズムが「一人当たり月間売上70万円」という明確な基準設定です。 この目標から逆算して、各職種のスタッフに必要なサービス提供時間を定めています。「うちで提供基準が(正社員ヘルパーの場合)110時間と決まっているのは、1人当たりの売上70万円を達成する目安なんです」と金野代表は説明します。 この基準を達成するために、サービス提供責任者(サ責)、正社員ヘルパー、管理者ごとに明確な提供時間基準を設定(正社員ヘルパー110時間、サ責80時間、管理者50時間/月) 空き時間は別の業務(事務作業など)に充て、その時間も提供時間としてカウントします。 これにより、「訪問が足りなかった」といった言い訳は通用しないシステムとして運用しています。 利用者様との「相性の難しさ」は、原則サービス提供を拒否する理由にはなりません。 私たちは「プロの対応スキルで乗り越えるべき課題」と定義し、個々のスキルアップを通じて、どんな状況でも最高のサービスを提供できるプロフェッショナル集団を目指しています。 「福祉だろうがボランティアじゃないから、数字なくして高い水準の給料払えない」という明確なメッセージを採用段階から発信し、福祉マインドと事業性の健全なバランスを追求しています。
【人材の採用・定着について。ミスマッチを防ぐ『徹底した透明性』】
人材の採用と定着は、事業継続の生命線です。私たちは年間300件以上の応募をいただいており、昨年は40名の採用に成功しました。しかし、最も重視しているのは「入社後のミスマッチを防ぐこと」です。 人事採用担当の木許さんは「入ってきてからギャップがあるのが一番いけない。 早期離職は、会社にとっても本人にとっても大きなダメージになります」と語ります。 そのため私たちの採用活動は「徹底した透明性」を大きな特徴としています。 採用面接では「大変なこと」や「難しい部分」についても包み隠さず率直に説明します。ゴールデンケアの理念や働き方に共感し、成長意欲や覚悟を持って働いてくださる方に来てほしいと考えています。 重要なのは、やりがいや働きやすさだけをアピールするのではなく、応募者が辞退されることを恐れずあえて難しい面も正直に伝えること。それにより入社後の「こんなはずじゃなかった」というギャップを防ぐことを最優先しています。 「応募者のニーズと当社のニーズが合っているかどうか、そこを丁寧にすり合わせています」 一方的に情報を伝えるのではなく、相互理解を深める姿勢を大切にしているのです。 採用チャネルとしては、ジョブメドレーやカイゴジョブといった求人サイトからのスカウト(月200件以上送付)が主軸ですが、リファラル採用にも注力しており紹介者には報酬(正社員紹介10万円、登録ヘルパー紹介3万円)を支給しています。 また業界平均より高い水準である約13%が自社ホームページ経由の応募であることも強みです。 昨年度はリファラルとホームページ経由の応募が35.5%でしたので、50%を目指したいところですね。 これは、ホームページやブログ、SNSでの情報発信において、スタッフの成功体験だけでなく「難しかったところ」「できなかったところ」「自身の課題」といったリアルな声や成長の過程をオープンにしていることが大きいと考えています。「そこに気づいてどう成長していくのかが大事」という考え方を、社外にも発信しています。
【人材の採用・定着について:納得感を醸成する『定量的な評価制度』】
高い定着率を支えるもう一つの柱が、「評価制度の透明化」です。「評価の不透明性が問題」と金野代表は指摘します。介護職の離職理由として常に上位に挙がる「評価への不満」に対し、私たちは定量的な評価制度を構築することで応えています。 「定量的なものでないと、どうしても評価者によるブレが生じ、不平等感が出てしまう」という考えから、サービス提供時間や訪問件数といった客観的な指標を評価の中心に据え、「誰が評価しても同じような評価になる」仕組みを目指しています。 さらに、この評価制度は固定的なものではありません。「毎年プロジェクトを組んで、評価制度を更新し、スタッフにアンケートをとって、納得度を測定する」という継続的な改善プロセスを回しています。これにより、透明性が高く、スタッフが納得感を持って働ける人事制度を維持し、高い定着率へと繋げています。
Q3. 利用者獲得はどのように進めてこられたのでしょうか?
利用者獲得においては、特に事業立ち上げ期から徹底した営業活動を行ってきました。 「千葉市で訪問(営業)を積極的に行い、ケアマネージャーとか相談員、障害の方の相談支援専門員に、対面で全部の人に会ったという人は(競合には)そんなにいないのではないか」と金野代表が自負するほど、地域での関係構築に力を入れています。 特に立ち上げ期には、「『次の新規(利用者紹介)が来たら、あなたのところに回しますね』と言ってくれる関係性のケアマネージャーや相談支援専門員を、何件作れるか」という視点を持ち、ケアマネージャー等との関係構築に注力しました。その結果、新規に事業所をオープンしても、比較的早期に利用者を獲得できる基盤を作ることができました。 「元々営業マンだったので、営業することは全然苦ではなかった」という金野代表自身が先頭に立ち、赤字期間を可能な限り短縮することに取り組んできました。「人材採用だけをしていても、そこに利用者がいなければ赤字の額がどんどん大きくなってしまうので、(採用と利用者獲得は)両方同じように進める必要がある」と考えています。
Q4. 金野代表が考える「訪問介護の未来」とゴールデンケアの今後の展望についてお聞かせください。
今後の介護業界の方向性について、金野代表は冷静に分析します。「日本の人口統計と国の財政状況を見たら国が出している方針、つまり『需要を抑制して、供給をどうお金を使わずに増やしていくか』という方向性に、大枠は絶対になる」と考えています。この大きな流れに対応していくことが、これからの介護事業者に求められます。 一方で「介護業界は未だにファックス文化、手書き文化が根強い」と、業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れを指摘します。 この課題に対し、ゴールデンケアが目指すのはまず「ITツールを日常に浸透させる」こと、そしてその先に「AIファーストな介護事業所」を実現することです。 現在、当社ではシフト管理にGoogleカレンダー、利用者情報の管理にGoogleドライブ、スタッフ間のコミュニケーションにはSlackといったアプリを活用しています。 そして「AIファーストな介護事業所を作ることによって、そこで得た知見や技術を世の中に広めていくのが、私たちの使命」と金野代表は力強く語ります。 AIの活用により、記録業務の効率化、最適なサービス計画の立案支援、スタッフの負担軽減などを実現し、生産性の向上とサービス品質の向上を両立させたいと考えています。 現在もYouTubeチャンネルを開設し、積極的に情報発信を行っていますが、将来的には、私たちが開発・導入するであろう介護業界向けのAIサービスを、他の事業者にも提供していくことも視野に入れています。「私たち(ゴールデンケア)だけでは、日本の介護需要は到底担えません。同じ担い手としてこの業界で働いている事業者に、どうすれば価値を提供できるか」という視点を持ち、業界全体の底上げに貢献していくことを目指しています。 「企業→スタッフ→顧客」という独自の優先順位に基づく経営哲学、一人月70万円の売上基準とそれを支える仕組み、障害福祉サービスとの連携による安定化、徹底した透明性に基づく採用・評価制度、そしてAI活用による未来への挑戦をされています。 ゴールデンケアの躍進は業界の常識にとらわれない戦略と、それを実行する強い意志によって支えられていました。変化が求められる訪問介護業界において、独自の取り組みをされていることがとても印象的でした。