看護小規模多機能の経営戦略:成功事例に学ぶ経営のコツとサービス設計

はじめに

高齢化が深刻化する日本において、住み慣れた地域で安心して生活を送りたいというニーズはますます高まっています。そのニーズに応えるサービスとして、看護小規模多機能型居宅介護(看多機)は、利用者様の状態や希望に合わせて、通い、訪問、宿泊といった多様なサービスを柔軟に組み合わせることができるため、大きな注目を集めています。 しかしながら、看多機事業は一般的に経営が難しいと言われており、看多機を立ち上げるには、詳細な事業計画と収益性を担保できる戦略が不可欠です。 そこで今回は、看多機の成功事例として医療法人木水会の小松原理事長に、船井総合研究所の介護経営コンサルタントが、看多機事業立ち上げの経緯から成功の秘訣、そして今後の展望まで、詳しくお話を伺いました。

看護小規模多機能 「八州苑」

今回ご紹介する「医療法人木水会」は、栃木県で大正元年から100年以上、地域医療を提供してきた「小松原医院」と、老健・グループホーム・デイサービス等で地域介護を提供する「八州苑」から成る、地域の医療・介護をグループ全体で支えている法人です。中重度者の在宅生活を支えるという、看多機に求められている役割を果たし、CSV経営(経済的な成功とともに社会的な価値を生み出す経営)に取り組まれている、小松原理事長・岡田理事・野原管理者に取材しました。

小松原理事長

岡田理事

野原施設長

Q&A

Q. 船井総合研究所: 一般的に経営が難しいと言われている看多機事業ですが、御社が参入された理由は何だったのでしょうか?
A. 医療法人木水会 小松原理事長: 当法人が看護小規模多機能事業に参入したのは、私が法人の経営に携わるようになるよりも7~8年前のことでした。当時、小規模多機能型居宅介護(小多機)として運営していましたが、登録者数は10数名と低迷し、設立以来、看多機事業の財務状況は赤字でした。 そこで、法人のメイン事業である介護老人保健施設(※以下老健)との相性を考え、在宅復帰支援を事業ドメインとした小多機事業の運営を決意しました。住み慣れた自宅で、できる限り生活をし続けたいという利用者の想いと、国の地域包括ケアシステム構築の方針に応えるためにも、医療機関を退院した方がスムーズに在宅生活へ移行できるサービス内容、つまり医療ニーズの高い方にも対応できるサービスが必要と考え、小多機を看多機に転換する決断をしました。

Q. 船井総合研究所: 看護小規模多機能への転換はどのように進められたのでしょうか?
A. 小松原理事長:

まず、私の考えを理解しているメンバーに管理者となってもらい、現場を立て直すことから始めました。なにしろ赤字の状態でしたので、より多くの方から選ばれる事業にするために、病院や老健等、退院支援が必要になる施設へは積極的に情報発信をしました。 また当時、事業所が老健から車で20分ほど離れた場所にあったため、老健の目の前にある、元々デイサービス事業を運営していた物件に移転しました。これにより、老健との連携がより密になり、利用者さんにとっての利便性も向上しました。

Q. 船井総合研究所: 看護小規模多機能への転換後、どのような課題がありましたか?
A. 野原管理者:

転換当初は、介護度の低い利用者さんの割合が高く、平均介護度が2.1と行政が看多機に期待する中重度者への対応は達成できていない状況でした。基本報酬は平均介護度によって変動するので、黒字にして事業継続するためにも、介護度の高い利用者さんから選ばれる必要がありました。 看多機になったことで、小多機の頃に利用してくださっていた方ができるだけ不利益を被らないよう、例えば通所系サービスとの連携を強化し、リハビリ目的の利用者さんには、そちらへの移行を提案するなど、適切なサービス移行を心がけました。また、医療依存度の高い方や他のサービスでは受けられないような困難ケースの方を積極的に受け入れることで、徐々に中重度対応ができる施設という認知度を上げていきました。

Q. 船井総合研究所: 平均介護度を上げるために、具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか?
A. 野原管理者:

まずは、居宅介護支援事業所や医療機関との連携を強化し、情報交換を密に行いました。その中で、医療ニーズの高い方や、健康状態が不安定な方の受け入れ先に関するお悩みやご不安があれば、看多機を利用することで実現することができる受入方法の提案を積極的にするようにしました。 また、当事業所の看護師の専門性を向上させるために、研修会への参加を推奨したり、資格取得支援制度を導入しました。研修と実務経験を積んでいく中で、より高度な医療ケアを提供できるようになり、利用者様からの信頼度も高まりました。

Q. 船井総合研究所: 現在の看護小規模多機能事業の状況はいかがですか?
A. 岡田理事:

現在、登録者数は27~28名で安定し、平均介護度は3.5~3.6となっています。保険収入は約1047万円です*。 *全国的にみても上位15%に入る業績になります。

Q. 船井総合研究所: 経営面で特に重視されていることはありますか?
A 小松原理事長:

法人全体として、老健が経営の軸であるという考えを徹底しています。看護小規模多機能は、老健からの在宅復帰を支援する重要な役割を担っており、老健の強化型・超強化型を維持するためにも、欠かせない存在です。 看多機事業の経営においては、加算の取得も重要なポイントです。中でも、看護体制強化加算は必ず取得をできるよう、より良いサービス設計に取り組んでいます。

Q. 船井総合研究所: 看護体制強化加算を取得するために、どのような取り組みをされたのでしょうか?
A. 野原管理者:

看護体制強化加算の要件を満たすためには、当然、看護師の人数を確保する必要があります。当事業所では、訪問看護ステーションを併設することで、看護師の人数を確保し、24時間電話対応を提供できる体制を整えました。 医療依存度の高い利用者様を受け入れることができるようになり、特別管理加算の取得数も増えています。

Q. 船井総合研究所: 看多機と訪問看護ステーションの連携について、具体的に教えてください。
A. 小松原理事長:

訪問看護ステーションを併設することで、看多機では対応が難しい医療ニーズの高い利用者様にも、質の高いサービスを提供できるようになりました。例えば、看多機の利用中に容態が急変した場合でも、訪問看護ステーションの看護師が迅速に対応することができます。 また、訪問看護ステーションの看護師が、看多機のスタッフに対して医療に関する指導や研修を行うことで、全体のスキルアップにも繋がっています。

Q. 船井総合研究所: 訪問看護ステーションとの連携による、収益面でのメリットはありますか?
A. 岡田理事:

訪問看護ステーションとの連携により、医療保険の算定が可能になる場合があります。例えば、夜間や休日など、看多機のスタッフだけでは対応が難しい場合に、訪問看護ステーションの看護師が訪問することで、医療保険を算定し利用者に適切なサービスを提供することができます。 連携する際の算定基準については、地域毎の方針によってルールの違いがあるため、行政との連携を密に行い、正確な情報を把握しておく必要があります。

Q. 船井総合研究所: 最後に、看多機事業の立ち上げを検討されている方へメッセージをお願いします。
A. 小松原理事長:

看多機事業は、地域包括ケアシステムにおいて重要な役割を担うサービスです。しかし、成功するためには、医療機関や老健との連携が不可欠です。特に、退院される方を受け入れる体制が整っていることが重要です。 また、行政との連携も密に行い、地域のニーズ・方針に合わせたサービスを提供することが求められます。 最も重要なことは「看多機は在宅生活を支える最後の砦」という意識を持つことです。看多機が断る場合、その方の在宅生活を支えられるサービスは他に無いといっても過言ではありません。どんな利用者様でも可能な限り受け、その上で、その方にとって最適なサービスを検討して、できうる最善のサービスを提供するという姿勢が大切です。

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