介護保険報酬改定2024年対策セミナー 講演録【 訪問看護版 】
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全体としての改定概要
まず、全体としては、処遇改善加算を含めプラス1.59%の改定率で、4月1日に改定が施行されます。訪問看護の基本報酬は微増で、20分未満は314単位、30分未満は471単位、1時間未満は823単位となります。理学療法士や作業療法士が訪問する場合の単位数も微増となっていますが、条件付きで単位数が下がる場合もあります。
改定の背景と継続項目
3年前の改定では、地域包括ケアシステムの推進、感染症対策、自立支援、介護人材の確保などが重点項目とされました。今回もこれらの取り組みは継続され、介護サービスの質向上や職場環境改善が図られています。訪問看護においては、専門性の高い看護師による訪問の評価や、在宅移行支援、ターミナルケア加算の見直しなどが行われています。
訪問看護における新たな評価と加算
専門性の高い看護師による訪問の評価は、2022年の診療報酬改定にて、月2500円の加算として新設されていましたが、介護報酬にも専門管理加算として250単位で新設されました。これは、特定の専門ケアを行う看護師に算定されます。
また、看護師の退院当日訪問を評価する新区分が創設され、初回加算が350単位と300単位の二区分に分けられました。退院日の訪問看護が初回の場合、350単位が算定されます。これらの改定は、在宅移行の円滑化に資する訪問看護を評価する姿勢を示しています。
ターミナルケア加算も見直され、2000単位から2500単位に増加し、診療報酬と同等の評価になりました。
遠隔死亡診断とBCP未策定事業所への対応
情報通信機器を使った死亡診断の補助についても、新たな評価が導入されました。これにより、離島などで看護師が医師の死亡診断を支援する際、遠隔死亡診断補助加算150単位が算定できることとなりました。
また、業務継続計画(BCP)未策定事業所には減算が適用され、業務継続計画未策定の場合、4月以降は訪問看護の所定単位数の1%が減算されます。
高齢者虐待防止と身体的拘束の廃止・適正化
高齢者虐待防止措置未実施減算も新設され、未実施の場合は同様に減算があります。
これらの変更は経営に大きな影響を及ぼすため、対策の実施が求められます。身体的拘束の廃止・適正化にも言及があり、訪問看護においては減算の対象ではありませんが、適切な対応が必要です。原則として身体拘束を避け、やむを得ず身体拘束を行う場合には記録を必ず行ってください。
口腔管理の連携強化と職場環境改善
また、自立支援と重度化防止のため、口腔管理の連携強化が新たに訪問看護にも適用されます。これにより、口腔衛生の評価や歯科専門医との連携が強化され、新加算が設けられています。口腔連携強化加算は月1回、50単位で算定可能です。
さらに、訪問看護の職場環境改善には、テレワークの取り扱いの改訂、24時間対応体制の負担軽減、退院時共同指導の柔軟化が挙げられます。テレワークの取り扱いについて、個人情報の適切な管理と利用者の対応に支障がないことを前提に、職種や業務ごとの具体的な方針が示されています。訪問看護は直行直帰が可能なサービスで、テレワーク導入も比較的容易です。ICTを適切に活用し、セキュリティ強化を図ると共に業務負担軽減の体制を整えることは、今後の人材確保にも繋がる重要な取り組みです。
オンコール対応と勤務環境の改善
続いて今回の改定で注目度の高いオンコール対応に関わる改定について。今回の改定では、夜間対応の看護師の勤務環境を考慮した新たな加算区分が設けられました。厚生労働省はオンコール対応を行うステーションの増加と、看護師の負担軽減を推進しています。これまで574単位だった緊急時訪問看護加算が、条件を満たす場合には600単位に増え、オンコール対応を行うことのインセンティブが強化されました。
また、条件付で看護師以外もオンコール対応が可能となる改定が行われています。看護師以外にはPT、OT、ST、事務員も含まれ、連絡・相談体制が見直されています。看護師以外が対応する場合は、看護師以外が対応する際のマニュアル整備、緊急時の迅速な判断体制等が必要です。また、利用者や家族に説明し同意を得た上で、看護師以外の職員について都道府県知事へ届け出る必要があります。看護師以外がオンコール対応を行う場合、オンコール手当の対象者が増える可能性もあり、経営上の考慮が必要です。しかし、准看護師が多い事業所ではオンコールが持ちやすく、負担の分散も図りやすくなる改定と言えます。
退院時共同指導加算では、文書による記録の義務付けが要件から外されました。これにより、記録システム上での指導内容の記録で要件を満たすことになります。
理学療法士の訪問看護とその他の変更
また、理学療法士による訪問看護の評価見直しも行われ、リハビリ中心に活動する訪問看護ステーションは単位が大きく減少する可能性があります。具体的には、看護師による訪問よりリハビリ職による訪問が多い事業所は、1回のリハビリ職の訪問で8単位減少となります。また、12ヶ月超の期間、リハビリで訪問する場合は更に減算があります。該当する事業所は、リハビリ職を中心とした訪問看護の在り方を見直し、適正な回数にバランスを整えることが求められます。
また、書面掲示の規定や、特別地域加算などの地域区分の見直しが行われました。書類掲示については、これまで事業所内の掲示を求められていましたが、紙ファイルや電子記録、ウェブサイト上での情報公開によって満たされることとなりました。特別地域加算については、地域区分の変更があり、報酬や経営に直接影響します。
訪問看護のベースアップ評価加算
診療報酬の改定項目ではありますが、訪問看護のベースアップ評価加算が新設されたことで、看護師の処遇改善が図れました。これを機に、企業は看護師の雇用条件の改善に取り組むべきで、取り組み内容で採用力に差が出ます。他社の求人条件も確認が重要です。給料や職務内容は求職者にとって重要な情報ですが、競合他社の情報を知らなくてはより良い条件を設定することもできません。良い条件は関心を引き、詳細を見るきっかけになります。給与の見直しは今後の優先対応事項です。
訪問看護事業者の対策
ここからは、訪問看護事業者にとって必要な、短期・長期の対策を挙げます。
まず短期的には、加算要件への適合と減算の回避が重要です。次に、オンコール体制の見直しが必要です。長期的には、ICTの活用推進、リハビリを中心とした訪問から看護を中心とした訪問への移行、事業規模の拡大が挙げられます。
減算を回避するには、第一に業務継続計画の策定が重要で、未策定の場合は減算の対象となります。厚生労働省のBCP策定ガイドラインや全国訪問看護事業協会の雛形を参考に策定をお勧めします。重要なのは、雛形を参考にしながらも、社内で緊急時の対応策を協議し、組織に浸透させることです。
高齢者虐待防止の推進も重要で、未確定の場合は減算されます。高齢者虐待防止委員会を定期的に開催し、結果を周知することが求められます。虐待防止の指針を明確にし、虐待防止の検討を定期的に行い、研修を実施することが必要です。研修には全員が参加し理解する体制を整えることが望ましいです。措置の担当者は基本的に管理者ですが、主任やリーダーに任せることもできます。
短期的に取り組みたい加算要件への適合として、オンコール体制の見直しが挙げられます。緊急時訪問看護加算が574単位から600単位に収入が増えれば、年間で見れば大きな額になります。24時間体制の負担軽減には、勤務間隔の確保が必要です。夜間対応後の勤務間隔は、実際には調整が難しいこともあります。ステーションの規模により対応は異なりますが、勤務間隔の確保は必ずしも1日休む必要はなく、午前中半休などの配慮も可能です。夜間対応後の翌日休みや、勤務体制の工夫、例えばオンコール担当者の配置や管理者のサポート体制もニーズに応じて認められます。看護師以外の役割やICT、AI、IoTの活用による業務負担軽減も要件に合致します。連絡や相談体制の確保には勤務体制の柔軟な工夫が求められます。オンコール対策として、夜間後の半休制度など柔軟な勤務体制が必要です。
また、ICTの活用は、短期ではなく2~3年の中長期で取り組むべきです。ICTの活用はオンコール負担を減らす可能性がありますし、定員の概念がない在宅サービスにおいては特に有効です。施設においては、定員が売上の上限となるため、ICTを導入しても直接的な増収とはならず、組織再編を行わなければ人件費削減も限定的です。医療・介護業界にICT導入が進まないことは構造的な問題も大きいと感じていますが、在宅の領域では導入効果が高いと考えています。情報連携により業務効率化も可能です。特定事業所加算等、見直し・新設された加算要件を満たす上でも情報の効率的な共有や連携は重要です。まずは、記録請求ソフトの活用、チャットツール導入、電子契約の利用等を検討してください。重要なのは、間接業務の効率化です。
リハビリを中心とした訪問から看護を中心とした訪問への移行、事業規模の拡大については、看護師の採用が最重要課題となります。採用活動を推進する上で、訪問看護に関心がある方向けに、面接前の説明会を設けることをお勧めします。これにはプレゼンターの自己紹介、法人紹介、仕事内容の紹介が含まれます。求人票にこれらを記載することで、面接へのハードルが下がり、応募率が上がることが期待できます。また、ホームページの見直しも行ってください。未対応の場合は求職者向けにスマートフォン対応のページを作成、または更新してください。
改定は大規模組織に有利です。営業、採用、研修、マニュアル、管理者育成、理念浸透を経て、本部体制を築いてください。組織力強化が重要です。
お読みいただきありがとうございました。
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この記事を書いたコンサルタント
津田 和知
大手介護事業者の介護付き有料老人ホーム施設長を経て、船井総合研究所に入社。前職の経験を活かし、現場主義で問題の本質や改善の糸口を掴み、経営者のサポートを行う。コンサルティング領域は、介護施設の立ち上げや収支改善、訪問看護ステーションの立ち上げ、人事制度構築など。