はじめに:令和6年度報酬改定が示す「新たなステージ」への移行
令和6年度(2024年度)の障害福祉サービス等報酬改定は、障害児通所支援(児童発達支援、放課後等デイサービスなど)の事業所にとって、これまでにないほど大きな転換点となりました。令和5年4月にこども家庭庁が発足し、さらにこども基本法が施行されたことを背景に、障害児支援施策はこども施策全体の連続性の中で、より一層推進されていくことになったからです。
同年12月にはこども大綱や幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョンなどが閣議決定され、日本のこども施策は「こどもまんなか社会」の実現に向けて力強く動き出しています。本コラムでは、こうした時代の大転換期において、児童発達支援や放課後等デイサービスの事業所が持続可能な(サステナブルな)事業運営を成功させるための戦略について、令和6年度報酬改定のポイントと新しく改訂されたガイドラインの内容を基に、詳しく解説していきます。
第1章:こども施策の基本理念と「ウェルビーイング」の実現
事業運営の具体的なテクニックや加算の要件に入る前に、まずは私たち事業者が根底に持っておくべき理念について確認しましょう。令和6年7月に改訂された児童発達支援ガイドライン及び放課後等デイサービスガイドラインでは、こども施策全体の基本理念としてこども基本法の精神が明確に打ち出されました。
各事業所は、特別な支援や配慮を要するこどもであるか否かにかかわらず、権利行使の主体であるこども自身が、身体的・精神的・社会的に幸せな状態にあることを指す「ウェルビーイング」を主体的に実現していく視点を持って、こどもとその家族に関わらなければならないと明記されています,。これは、事業所が単なるお預かりの場ではなく、こどもが自分らしく生き生きと育ち、権利が保障される場として機能しなければならないという、強い社会的責任を示しています。
第2章:最大のポイント「5領域」を網羅した総合的な支援の推進
今回の報酬改定とガイドライン改訂において、最も現場の業務に直結し、かつ重要となるのが「総合的な支援の推進」です。適切なアセスメントの実施とこどもの特性を踏まえた支援を確保する観点から、支援においては以下の5領域を全て含めた総合的な支援を提供することが基本とされました。
- 健康・生活:心身の健康や生活に関する領域
- 運動・感覚:運動や感覚に関する領域
- 認知・行動:認知と行動に関する領域
- 言語・コミュニケーション:言語・コミュニケーションの獲得に関する領域
- 人間関係・社会性:人との関わりに関する領域
こどもの発達は特定の機能だけが単独で育つわけではなく、様々な領域が相互に関係し合いながら総合的に育っていくものです。そのため、児童発達支援や放課後等デイサービスにおいては、この5領域の視点を全て含めた支援を提供し、包括的かつ丁寧に発達段階を見ていくことが求められます。
【個別支援計画への落とし込み】
事業所は、この5領域の視点に基づいた支援内容を、事業所の個別支援計画等において明確に位置づける必要があります。具体的には、個別支援計画の「本人支援」の項目において、設定した具体的な支援内容が5領域のどの部分と関連しているのかを明記しなければなりません。関連する5領域が複数にまたがる場合には、関連する領域を全て記載します。さらに、障害児の地域社会への参加・包摂を推進する「インクルージョン」の観点も踏まえた内容とし、この点についても個別支援計画に記載していくことが新たに求められています。なお、こうした5領域との関連性やインクルージョンの観点からの記載は、令和6年10月31日までに個別支援計画の見直しのタイミングで行うことが必要とされています。
第3章:「支援プログラム」の作成・公表の義務化と未公表減算
総合的な支援の推進とあわせて、事業所が提供する支援の見える化を図るための大きな施策が導入されました。それが「支援プログラム」の作成と公表です。
運営基準において、事業所は5領域との関連性を明確にした事業所全体の支援内容を示す支援プログラムを作成し、公表することが求められることとなりました。支援プログラムは、以下の項目を網羅した内容で作成する必要があります。
- 事業所における基本情報:事業所名、作成年月日、法人(事業所)理念、支援方針、営業時間、送迎実施の有無。
- 支援内容:本人支援の内容と5領域の関連性、家族支援(きょうだいへの支援も含む)の内容、移行支援の内容、地域支援・地域連携の内容、職員の質の向上に資する取組、主な行事等。
支援プログラムの作成にあたっては、管理者や児童発達支援管理責任者(児発管)だけで作成するのではなく、直接支援に従事する職員等の意見も聴きながら、全職員による共通理解を深めるプロセスを踏むことが推奨されています。
作成した支援プログラムは、インターネットのホームページ等、広く公表することが求められます。また、公表方法と内容を都道府県等に届け出る必要があります。
【支援プログラム未公表減算への注意】
非常に重要な点として、この支援プログラムが未作成・未公表の場合、「支援プログラム未公表減算」として所定単位数の85%(つまり15%の減算)が算定されてしまうという厳しいペナルティが設けられました,。この減算の適用は令和7年(2025年)4月1日からとなりますが、令和6年度中からしっかりと準備を進め、早期に公表の取り組みを進めることが強く望まれます。
第4章:基本報酬の抜本的見直しと時間区分の創設
事業所の経営基盤に最も大きな影響を与える基本報酬についても、抜本的な見直しが行われました。発達支援に対するきめ細かい評価を行う観点から、従来の日額単位から、「支援の提供時間」に応じた評価へと移行しました。
具体的には、個別支援計画に定めた個々の障害児の支援時間に応じて、以下の3つの時間区分が創設されました。
- 30分以上1時間30分以下
- 1時間30分超3時間以下
- 3時間超5時間以下(※放課後等デイサービスにおいては、この区分は学校休業日のみ算定可)
これに伴い、極めて短時間(30分未満)の支援は、原則として基本報酬の算定対象から除外されることとなりました,。(ただし、市町村が認める具体的理由がある場合は除く)
延長支援加算の見直し
時間区分の創設と連動して、「延長支援加算」も見直されました。5時間(放課後等デイサービスについては平日は3時間)を超える長時間の支援については、保護者の就労等の預かりニーズへの対応として、この延長支援加算によって評価が行われます。
個別支援計画の別表(タイムスケジュール等)には、基本となる提供時間と、延長支援となる時間を明確に分けて記載する必要があります。延長支援時間は、支援前・支援後それぞれ1時間以上から算定対象となり、合算での1時間は認められない点に注意が必要です。また、延長を必要とする理由(例:保護者の就労、レスパイト、学校の短縮授業など)も計画に明記しなければなりません。
第5章:専門性の評価と質の高い人材の確保・定着
質の高い発達支援を提供するためには、専門性を持った人材の確保と定着が不可欠です。今回の改定では、経験や専門資格に応じた評価のメリハリが強化されました。
児童指導員等加配加算の見直し
従来の児童指導員等加配加算は、専門職による支援の評価は後述の専門的支援加算で行うこととし、経験ある人材の活用を推進する観点から、配置形態(常勤・非常勤等)や経験年数に応じた評価へと見直されました,。児童福祉事業での経験年数(5年以上など)が要件に入り、経験豊富な職員を配置することで高い評価が得られる仕組みになっています。
専門的支援加算と特別支援加算の統合
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、公認心理師などの専門職を配置した際の評価も再編されました。従来の専門的支援加算と特別支援加算が統合され、専門的な支援を提供する体制と専門人材による個別・集中的な支援の計画的な実施という2段階での評価へと進化しました。これにより、専門職が単に配置されているだけでなく、その専門性を活かして個別支援計画に基づいた具体的な支援を計画的に提供することがより強く求められるようになりました。
第6章:児童発達支援管理責任者(児発管)の研修要件緩和
人材確保の観点で現場から多くの悲鳴が上がっていた児童発達支援管理責任者(児発管)の配置要件についても、特例的な対応が示されました。
令和元年度の研修体系の見直しにより、基礎研修修了後に2年間の実務経験(OJT)を経てから実践研修を受講するという仕組みになり、児発管の養成に最低2年以上を要することとなっていました。しかし、これにより人材確保が困難になり事業運営に支障をきたすケースが多発したため、以下の対応がとられています。
- 実践研修受講のためのOJT期間の短縮:基礎研修受講開始時に既に実務経験要件(相談支援業務等3〜8年)を満たしている者が、事業所で個別支援計画作成の一連の業務に従事する場合、OJT期間を2年以上から「6ヶ月以上」へと大幅に短縮し、実践研修の受講が可能となりました。
- やむを得ない事由によるみなし配置の延長:やむを得ない事由により児発管が欠如した場合、人員の欠如時に既に事業所に配置されており、かつ基礎研修を修了している者(実務要件を満たす者)を児発管とみなして配置する場合、これまでの最長1年間から、実践研修を修了するまで(最長2年間)みなし配置が可能となりました。
- 関係機関連携加算の新設:保育所等訪問支援において、訪問支援員が保育所等の職員と連携して支援を行った場合を評価する加算が新設されました。
- 個別サポート加算(Ⅲ)の新設(放課後等デイサービス):不登校状態にある児童に対して、学校との緊密な連携を図りながら支援を行った場合を評価する加算が設けられました。
- 従業者評価:事業所の職員自身による自己評価の実施
- 保護者評価:事業所を利用するこどもの保護者による客観的視点からの評価の実施
- 事業所全体での自己評価と公表:上記1と2の結果を踏まえ、事業所全体で課題や改善点を分析し、その内容を保護者に示すとともに、インターネット等で広く公表する
これらの緩和措置により、質の確保を維持しつつも、現場の人材不足への一定の配慮がなされています。
第7章:ケアニーズの高いこどもへの支援と家族支援の拡充
事業所が地域の中で果たすべき重要な役割として、医療的ケア児や重症心身障害児、そして強度行動障害を有するこどもたちへの支援体制の強化が打ち出されました。
視覚・聴覚・言語機能障害児支援加算 / 入浴支援加算の新設
視覚、聴覚、言語機能に重度の障害のあるこどもに対して、意思疎通に関する専門性を有する人材を配置して支援を行った場合を評価する視覚・聴覚・言語機能障害児支援加算(100単位/日)が新設されました。また、医療的ケア児等への入浴支援を提供した場合の入浴支援加算(55単位/日)も創設され、よりきめ細やかなニーズに対応する事業所が評価される仕組みとなりました。
強度行動障害児支援加算の見直し
強度行動障害を有するこどもへの支援体制も強化されています。基礎研修修了者や実践研修修了者を配置し、支援計画シートに基づく支援を行った場合の評価が拡充されました。特に、実践研修修了者の配置については、常勤専従でなくても、管理責任者や児発管が兼務する場合でも算定可能となるなど、より現場の実態に合わせた柔軟な運用が可能になりつつ、質の高い支援が提供されるよう設計されています。
家族支援加算への再編とオンライン対応
障害児支援のもう一つの柱である家族支援も大きく見直されました。従来の事業所内相談支援加算などが家族支援加算へと再編され、個別相談やグループ相談の評価が整理されました。注目すべきは、オンラインによる相談援助(個別オンライン80単位/回、グループオンライン60単位/回)が正式に単位として評価されたことです。これにより、仕事やきょうだいの育児で忙しい保護者に対しても、柔軟で継続的な家族支援を提供しやすくなりました。
第8章:インクルージョンの推進と関係機関との連携
こどもたちが地域社会の中で育っていくためのインクルージョン(包摂)の推進も、今後の事業運営において欠かせないキーワードです。
今回の改定では、事業所が地域の保育所や幼稚園、学校等と連携し、こどもがそれらの一般的な集団生活の場へ移行したり、併行して利用したりするための支援が強く求められています。
事業所の中に閉じこもるのではなく、地域資源を活用し、こどもの生活圏全体を「面」で支えるネットワーク構築のハブとなることが、事業所に求められています。
第9章:支援の質の向上と自己評価の徹底(自己評価結果等未公表減算)
最後に、持続可能な事業運営の要となるPDCAサイクルの構築と自己評価について解説します。
これまでもガイドラインにおいて自己評価の実施と公表は求められていましたが、令和6年度改定において、これがさらに厳格化されました。
自己評価結果等未公表減算の適用
事業所は、支援の質の評価と改善を図るため、以下の3つのステップを踏むことが義務付けられています。
この一連のプロセス(自己評価、保護者評価、改善内容の公表)が未実施の場合、「自己評価結果等未公表減算」として、所定単位数の85%しか算定できなくなります。
さらに、今回から保育所等訪問支援についても自己評価・保護者評価・訪問先施設評価の実施と公表が義務化され、令和7年4月からは同様に未公表減算が適用されることになりました。
富山県などが示している対応フローチャートや、こども家庭庁が作成した自己評価の流れを見ても分かるように、単にチェックリストを埋めてホームページに掲載すれば終わり、というものではありません。集計結果を職員全体で討議し、事業所の強みと弱みを分析し、支援の質の向上に向けた具体的な改善計画を立てるという、組織としての真摯なPDCAの実践が求められているのです。
おわりに:こどもたちの未来を創る、選ばれる事業所になるために
令和6年度の障害福祉サービス等報酬改定とガイドラインの改訂は、事業所に対して・より高い専門性・総合的な支援の提供・地域や家族との密な連携・徹底した情報の透明性と自己改善を求めています。
時間区分の導入による事務処理の変化や、支援プログラム・自己評価の公表義務化など、一時的には現場の負担が増える部分もあるかもしれません。しかし、これらは全てこどもまんなか社会を実現し、こどもたちのウェルビーイングを高めるための不可欠なプロセスです。
「5領域」に基づいた質の高い支援プログラムを作成し、それを誇りを持って地域に公表すること。そして、保護者の声や職員の気づきを真摯に受け止め、絶えず事業所をアップデートしていくこと。この実直な取り組みこそが、結果として保護者から信頼され、地域から必要とされ続ける「サステナブルな(持続可能な)事業成功」への唯一にして最大の戦略となるはずです。こどもたちの豊かな未来を共に創るため、新たな制度を前向きに捉え、より良い支援の探求を続けていきましょう。







