介護業界の人材不足を解消する採用戦略とは?
- カテゴリ:
- 時流・業界動向
本コラムをお読みいただきありがとうございます。船井総合研究所の介護経営コンサルタント、堀江空です。
はじめに
超高齢社会の到来により、介護業界はますます需要が拡大しています。しかし、その一方で、深刻な人材不足が大きな課題となっています。
多くの介護施設が、慢性的な人材不足に悩まされ、事業の継続、サービスの質の維持、そして事業拡大に大きな影響が出ています。
本コラムでは、介護業界の人材不足の現状と、その解決策として有効な最新の採用トレンドと施策について解説いたします。
介護業界の人材不足:深刻化する現状と要因
現在の日本は、世界的に見ても類を見ないスピードで高齢化が進んでいます。それに伴い、介護サービスの需要は増加の一途をたどっており、介護業界は成長を続ける一方です。
しかし、介護業界の成長を阻む大きな壁として立ちはだかっているのが、深刻な人材不足です。厚生労働省の調査によると、2026年度までに約240万人、2040年度までに約272万人の介護職員が必要と予測されています。これは、年間約6.3万人のペースでの増員を意味し、介護事業者にとって人材確保が喫緊の課題であることを示しています。
介護職員の不足感は年々増加しており、特に専門性の高い有資格者の確保が課題となっています1。有効求人倍率はピーク時には4倍を超え、その後も3.5倍以上と依然として高い水準にあります。全職業の平均求人倍率と比較して約3倍となっており、採用において競合他社との差別化を図る戦略を構築しなければなりません。
人材不足の要因は多岐にわたりますが、主な要因としては以下の点が挙げられます。
低賃金・重労働: 介護職は、他の産業と比べて賃金水準が低い傾向にあり、夜勤や身体介護など、肉体的にも精神的にも負担の大きい業務が多いというイメージが根強くあります。
キャリアパスが見えにくい: 介護職は、資格取得や役職昇進などのキャリアアップの道筋が明確でない場合があり、将来展望が見えにくいと感じている職員も少なくありません。
職場環境の課題: 労働時間の長さ、休暇取得の難しさ、人員不足による負担増加など、職場環境の課題が離職率の増加に繋がっているケースも見られます。
これらの要因が複合的に作用し、介護業界の人材不足問題を深刻化させています。
人材不足を解消する採用戦略:最新トレンドと成功事例
人材不足が深刻化する中、介護事業者は、従来の採用活動にとどまらず、より効果的な採用戦略を積極的に導入する必要があります。
1. 介護職員の処遇改善:賃金アップと働き方改革
厚生労働省は、介護職員の処遇改善を目的とした各種施策を推進しています。2024年度の介護報酬改定では、介護職員の賃金アップを目的とした新たな加算が導入されました。
この加算は、2024年と2025年にかけて段階的に導入され、介護職員の基本給や手当の引き上げに活用されます。
事業者は、この加算を有効活用し、職員の賃金水準向上、労働時間短縮、休暇取得の促進など、働き方改革を積極的に進めることが求められます。
人員不足が深刻な法人は、人材獲得を重視し、給与相場の少なくとも平均以上にする、他職種も相場と比較し、事業上重要性の高い職種は給与相場に合わせる、などの施策を検討する必要があります。
一方、人員に多少の余裕がある法人は、人材定着・人材育成を重視し、法人全体で加算を配分する、資格取得支援や研修制度を充実させる、人事評価制度と連動させるなどの施策が有効です。
2. 多様な人材の活用:未経験者やシニア層の活躍促進
従来、介護職員は、資格を持った経験者が中心でしたが、近年では、未経験者やシニア層、外国人など、多様な人材の活用が注目されています。
厚生労働省も、無資格者やシニア人材を「介護助手」として活用する観点を推奨しています。
事業所内の業務を分業し、それぞれのスキルや経験に応じた役割を分担することで、雇用のハードルを下げ、多様な人材の活躍を促進することができます。
例えば、資格必須の職員が介護業務全般を担当する「通常体制」から、役割ごとに難易度を設定し、資格や経験に応じて担当業務を分担する「分業体制」への移行などが考えられます。
分業体制を構築することで、未経験者やシニア層、パートタイム勤務を希望する人材など、より幅広い層からの採用が可能になります。
3. 介護職の魅力向上:働きがいとやりがいを感じられる職場づくり
介護職は、人の役に立つ、社会貢献度の高い仕事ですが、その魅力が十分に伝わっていない現状があります。
厚生労働省は、介護職のイメージアップ、魅力向上を目的とした施策を推進しています。
事業者は、介護ロボットやICTなどの最新技術を導入し、職員の負担軽減、業務効率化を図ることで、より働きやすい職場環境を整備する必要があります。
また、研修制度やキャリアパスを整備し、職員のスキル向上、キャリアアップを支援することで、働きがいを感じられる環境づくりが重要です。
さらに、イベントやメディア、SNSなどを活用し、介護の仕事のやりがいや魅力を発信することで、社会全体の介護に対する理解を深めることも必要です。
4. 外国人人材の受け入れ:新たな人材源の確保
深刻化する人材不足に対応するため、外国人材の受け入れも重要な選択肢となっています。
厚生労働省は、外国人材の受け入れに関する制度整備を進めており、介護事業者における外国人材の活用が進んでいます。
外国人材を受け入れる際には、言語サポート、生活支援、文化の違いへの配慮など、適切なサポート体制を構築することが重要です。
5. 採用DXの推進:デジタル技術を活用した効率的な採用活動
近年、採用活動においてもデジタル技術の活用が進んでいます。
介護業界においても、採用プロセスをデジタル化することで、業務効率化、応募者とのコミュニケーション円滑化、適切な人材マッチングなどが実現できます。
例えば、応募書類のデジタル管理、オンライン面接の実施、AIを活用した適性診断などが挙げられます。
また、自社ホームページやSNSなどを活用し、積極的に情報発信を行うことで、事業所の魅力を効果的に伝えることができます。
6. 定着率向上:離職防止と人材育成
せっかく採用した人材が定着しなければ、人材不足の根本的な解決にはなりません。
働きやすい職場環境づくり、スキルアップを支援する研修制度、キャリアアップを促進する人事評価制度など、多角的な取り組みが必要です。
7. 採用強化手法の実施:効果的な手法の組み合わせ
効果的な採用活動には、さまざまな手法を組み合わせることが重要です。求人媒体の活用、スカウトメール運用、リファラル採用制度、採用説明会、インターンシップ実施、SNS採用、自社採用HP構築など、多岐にわたる手法があります。
8. 幹部育成:組織全体のレベルアップ
管理職の育成は、組織全体のレベルアップに不可欠です。
幹部育成研修などを実施し、リーダーシップ、マネジメントスキル、コミュニケーションスキルなどを向上させることで、組織を活性化し、離職防止にも繋がります。
介護業界の未来:人材不足を克服し、持続可能な業界へ
介護業界の人材不足は喫緊の課題であり、事業者は、様々な対策を講じる必要があります。
処遇改善、多様な人材の活用、魅力向上、外国人材の受け入れ、採用DXの推進、定着率向上、効果的な採用手法の実施、幹部育成など、多角的な取り組みによって、人材不足を克服し、持続可能な業界へと発展させていくことが、私たち介護業界関係者の使命です。
今後の予測
今後の介護業界において、人材不足はさらに深刻化することが予測されています。少子高齢化の進展により、介護サービスの需要は増加し続ける一方、労働人口は減少していくため、人材の需給バランスはますます悪化していくでしょう。
このような状況下において、介護事業者は、従来の採用方法にとらわれず、より戦略的な人材確保に取り組むことが求められます。
1.採用活動の高度化
AIやビッグデータなどを活用した採用システムの導入、ターゲットを絞り込んだダイレクトリクルーティングなど、より効率的かつ効果的な採用活動が求められます。
2.働き方改革の推進
柔軟な勤務時間制度の導入、テレワークの導入など、職員が働きやすい環境を整備することで、優秀な人材の確保、定着率向上を目指します。
3.介護職の社会的地位向上
介護職の重要性、社会貢献度の高さを広くアピールすることで、より多くの人材が介護業界へ参入する土壌を育む必要があります。
レポートダウンロードのお勧め
より詳細な情報や具体的な事例については、船井総合研究所が作成した「介護業界の人材採用・育成 時流予測レポート2025」をご参照ください。
本レポートでは、最新の採用トレンド、効果的な採用手法、成功事例などを詳しく解説しています。
人材不足に悩む介護事業者様にとって、必ず役立つ情報が満載です。
ぜひ、下記のリンクからダウンロードして、貴社の採用戦略にお役立てください。
船井総合研究所は、介護事業者様の経営課題解決を支援する、様々なサービスを提供しています。人材不足にお困りの際は、お気軽にご相談ください。