“半日リハビリ特化型” デイケアによるサービス最適化モデル
はじめに
近年のデイケア業界では、2023年度に全国的に利用率や利用者単価が上昇し、以前に比べると経営状況の回復が見られています。しかし、依然として約3割(31.9%)の事業所が赤字であり、平均稼働率62.8%と、多くの法人が厳しい経営環境に置かれています(WAMNET『2023年度 介護老人保健施設の経営状況について』)。
このような状況の中、岩手県盛岡市で78年の歴史を持つ医療法人遠山病院が運営する「通所リハビリテーション鷹匠小路(たかしょうこうじ)」は、全国平均(62.8%)を大きく上回る86.7%の稼働率を実現しています。同事業所は2012年9月に開設され、遠山病院のみなし事業として運営されています。開設当初から利用者のニーズに合わせて柔軟に対応できる運営形態を追求し、”半日リハビリ特化型デイケア” というモデルを確立しました。同法人は一日型の老健併設型デイケアも運営していますが、鷹匠小路では「短時間でしっかりリハビリを行いたい」という利用者に特化したサポートを提供することで、利用者層の住み分けがなされています。
Ⅰ. 高稼働率を支える「リハビリ特化」の運営戦略
鷹匠小路が高稼働率を維持できる最大の要因は、キャンセル率の低さにあります。鷹匠小路では短時間のリハビリに特化しているため、リハビリ意欲の高い利用者が集まり、利用枠に空きが出づらい傾向が見られます。さらに、意欲的な利用者同士が集まることで、お互いの様子を見ながらモチベーションを維持できるため、仲間意識が高くなることも特徴です。鷹匠小路の室内は明るくて広々としたワンフロア構造であり、これも新規利用者に選ばれる要因の一つとして挙げられています。
新規成約についても安定しており、毎月の体験利用が平均5〜6件、そのうちほぼ100%が成約につながっています。事業所の開設当初は内覧会やポスティング、地域活動などの営業活動を積極的に実施していましたが、一定の新規成約が見込める現在は、ケアマネジャーに対して、専門のリハビリ職から提案や報告などのフォローアップを徹底することで、継続的な紹介獲得につなげています。
関わりのあるケアマネは合計で約60名ほどになり、特に関わりの深いケアマネからは4〜5名の利用者紹介を受けるケースもあると言います。
Ⅱ. 要介護度に応じた専門職主体のサービス提供体制
鷹匠小路では、開設初期、とある利用者から「要支援者の自分が、要介護度の高い利用者に混じってリハビリをしていて良いのか」という悩みの声が上がったことを受け、要介護者と要支援者で午前・午後の利用時間を分けて運営しています。介護度が別々の夫婦が一緒に通いたい、という要望にも応えるため、週に一回、要支援と要介護の利用を一緒にした時間帯も設定しています。
・要支援者向け
自立支援がメインで、スタッフが手をかけるのではなく、運動指導を中心にスポーツクラブのようなイメージで利用してもらう。
・要介護者向け
運動指導と個別リハビリを組み合わせ、要支援者よりもスタッフが関わる時間を多く設ける。
個別リハビリは、最低1単位の時間内で必要に応じてサービス提供時間を調整する。
鷹匠小路の職員数は合計11名で、理学療法士(PT)4名、作業療法士(OT)3名、言語聴覚士(ST)1名と、専門職が非常に多い構成です。その結果、専門職とケアマネが利用者の状態に関して密な連携を取れる体制を整えられています。専門職は書類作成など業務量が多いため、業務時間を確保できるよう、以前までは利用者送迎はタクシー会社に委託していました。雪国の東北地方では、冬期の利用者の安全を確保するためにも、送迎は専門のタクシー運転手に任せるという、地域ならではの特性があります。
Ⅲ. リハビリの目的理解促進と「卒業」への取り組み
デイケアのサービス提供における課題の一つとして、利用者が医療機関でのリハビリから介護保険リハビリに移行する際に、イメージのギャップが生じることが挙げられます。医療リハビリが病気以前の状態に回復することを目的としているのに対し、介護保険のリハビリは現状維持、または衰えを緩やかにすることが目的です。利用者からはそうした違いが認知されていないケースが多いため、鷹匠小路では体験利用時に必ず説明の機会を設けています。
また、介護保険の対象外の利用者に対しても、日頃の運動不足解消や体力・筋力作りのために専門スタッフがアドバイスを提供するために、メディカルフィットネスとして施設を開放しています。本来デイケアは利用者の「卒業」を目指すことが推奨されていますが、実際には使い続けたいという利用者ニーズが強く、実態としては卒業を積極的に実施している事業所は少ないのが現状です。鷹匠小路では、要介護度が改善し要支援などに区分が変更されたタイミングを「卒業」の基準として設定し、その場合には法人内のメディカルフィットネスなど、別サービスへの移行を促すことで、継続的なサービス提供を実現しています。
以上のように、通所リハビリテーション鷹匠小路の事例からは、半日型リハビリにサポート目的を特化し、専門職員の充実と個別化されたサービス、そしてケアマネとの強固な信頼関係構築を通じて、高い稼働率を実現していることが見て取れます。特に、要介護度に応じてサービス内容と時間を分けることで、要支援者には自立支援、要介護者には個別リハビリを提供し、サービスの独自性を生み出しています。
現在デイケア運営にお困りの皆様も、鷹匠小路が実践する、デイケアならではのリハビリ特化型運営手法を参考にされてはいかがでしょうか。
通所リハビリテーション鷹匠小路様、ありがとうございました。












