はじめに
就労継続支援B型の運営において、利用者の工賃向上、モチベーションの維持、そして地域社会との接点構築は、多くの事業所が抱える重要なテーマです。全国的に事業所数が増加する一方で、作業内容のマンネリ化や地域からの孤立といった閉塞感は、多くの経営者が直面する喫緊の課題といえます。
しかし、こうした課題を逆手に取り、「宿泊事業」「特産品の柑橘加工」「就労支援」を掛け合わせることで、地域社会と利用者が自然に繋がる画期的なビジネスモデルを確立している法人があります。今回は、その先駆的な取り組みについてお話を伺いました。
法人紹介
社会福祉法人新生福祉会
社会福祉法人新生福祉会様は、広島県尾道市の生口島を拠点に、広島と東京で多数の施設を展開する社会福祉法人です。「誰かを特別にするのではなく、すべての人が自然に受け入れられる世界を目指す」という想いを掲げ、単に“支援する”ことにとどまらず、“ともに生きる”という関係を育むことを大切にされています。同法人は地域に根ざし、特別養護老人ホームやデイサービス、訪問介護といった高齢者福祉サービスをはじめ、児童発達支援・放課後等デイサービス、反映して地域コミュニティの活性化を目的とした複合施設の運営など、幅広い事業を展開しています。年齢や立場、背景の違いを越えて、誰もが安心して心を開ける居場所づくりを追求されています。
事業紹介 ボナプール楽生苑
今回お話を伺ったのは、広島県尾道市の生口島にある「ボナプール楽生苑」です。
同施設は、障がいのある方、観光客の方、地域の方など、多様な人々が集う[とまる・つくる・はたらく・つどう]の複合施設です。
「ボナプール」という名称は、フランス語で幸せを意味する「ボナール」と、地域の方々の思い出がつまった旧瀬戸田町営プールの跡地であることから「プール」を合わせた造語で、多様な人々の「幸せな思い出がつくられる場所」でありたいという思いが込められています。
施設内は、宿泊×就労継続支援B型×交流スペース・レンタルキッチンの機能で構成されています。就労継続支援B型の事業として、利用者の方は柑橘加工やホテルの清掃、洗濯などの作業に取り組んでおり、就労を通じて社会性やスキルを身につけるための支援が行われています。

「瀬戸田港」や「しおまち商店街」にも近く、高根大橋と海の青さが交わる美しい景色が目の前に広がるこの場所で、多様な人々が自然と交わる画期的なモデルをどのように実現しているのか、管理者の坪島様にお話を伺いました。
Q. 「ボナプール楽生苑」を設立した経緯や背景を教えてください。
坪島様. 施設がある生口島が抱えていた3つの地域課題を解決するためです。具体的には、「観光地なのに宿泊施設が圧倒的に少ない」「特産品の柑橘を加工する場所が少ない」「障がい者の働く場所(就労継続支援B型)が島に1つしかない」という課題がありました。これらを解決するため、日本財団のプロジェクトの採択を受け、ホテル事業、柑橘加工、就労支援を掛け合わせた施設として誕生しました。
Q. 利用者の方はどのような作業を行っていますか?
坪島様. 主にホテルの清掃やベッドメイキング、柑橘の搾汁作業のほか、法人内の介護施設に出向き、人手不足の現場でシーツ交換などを行う施設外就労も実施しています。また、毎週金曜日に営業する「ボナカフェ」では、利用者の方が自ら店員となって自社製品を提供しています。ちなみにカフェのメニューは、専門家には頼らず未経験の職員たちが一から試作・考案しているんです。元パティシエの利用者さんと共同開発した「季節のムース」を提供するなど、利用者さんの強みもしっかり活かされています。

Q. 施設は地域社会とどのように関わっていますか?
坪島様. 1階部分を無料の交流スペースとして開放しており、仕事終わりにお茶を飲みに来る地元の方や、休憩中のスタッフ、観光客の方などが自然と交わる場になっています。だんだんと地域に浸透してきたこともあり、最近では小学校の卒業式の後に子どもたちが集まるなど、年代を問わず多様な使い方が広がっています。また、これまでの関係づくりの成果もあり、今では農家さん同士の口コミで「あそこで柑橘が搾れるらしいよ」と直接ご依頼をいただくなど、ボナプールならではの地域に根ざした繋がりが生まれています。
Q. 利用者の方の人数や特徴について教えてください。
坪島様. 2026年4月時点の登録者数は27名、1日の平均利用者は16〜18名です。特徴としては精神障がいのある方が最も多くを占めています。業務としてホテル清掃や柑橘加工などを行っていただく背景もあり、手先の作業が可能で、比較的自立されている方が中心となっています。また、生口島内にとどまらず、隣接する因島からフェリーを利用して通所される方もおられます。
Q. 利用者のサポートで工夫していることはありますか?
坪島様. まずは柑橘加工やホテルの作業を一通り経験していただき、1ヶ月ほどかけて適性を見極めてから担当を決めています。ただ、ずっと同じ作業をするのではなく、数ヶ月経ったらまた別の作業に挑戦してもらうなど、少しずつステップアップできる仕組みにしています。そのために、毎日必ず全員と短い振り返りの時間を作り、「今日はどんなことを頑張ったか」「何が難しかったか」を本人の言葉で話してもらい、記録に残しています。それを職員間で共有し、次の作業提供に繋げているのが工夫している点ですね。
Q. 今後の目標や課題を教えてください。
坪島様. まずは、「ボナプール楽生苑」の取り組みをより多くの方に知っていただくことが大きな目標です。具体的には、ボナカフェの営業やレンタルキッチンの活用を通じて地域の方々との接点増やしたり、利用者さんと一緒にチラシ配りに行ったり、地域のイベントにも積極的に出店していきたいと考えています。また、利用者さんの「仕事の場」をさらに外へ広げていくことも大切な課題です。4月からは近隣のグランピング施設である「シトラスパーク瀬戸田」と連携し、新たな施設外就労としてシーツ交換のお仕事をスタートさせます。こうした実践に近い社会経験を積む機会を増やし、最終的には、利用者の方が一般就労へと繋がり、ここを卒業できるところまでサポートしていきたいと考えております。








